水際で閉じていた目を開け、感想を記述している様子。(撮影:田中直子氏)
サウンドスケープ(音風景)を体感するワークショップに参加 @石神井公園三宝寺池
音の風景ともいえる「サウンドスケープ」を探求されている、田中直子さん主宰の体験型ワークショップ「三宝寺池sense of wonderさんぽ【霜月】」に参加。耳を澄ますことで、普段あまり意識していなかった周りの気配や、心地良い音など様々な音色を感じ、たくさんの気付きがありました。
特に、参加者2人一組になり目を閉じて歩く体験では、交代で一人が目を閉じ、もう一人が手を引きサポートしながら、園内の水際500mほどの距離を歩き、今まで感じたことのない動揺と静かな感動がありました。目を閉じたまま歩く足元の不安。迫りくるように感じる他の来園者の足音、危険を察知しようと耳を澄ますことで際立って聞こえる野鳥の声。こんなに鳥の声がしていたんだ、と気付きとても面白い。目を閉じて歩きながら想像してしまう危険回避は段々あきらめることになります。徐々にパートナーへ安全を委ね、リラックスして歩けるようになる。普段使うことなくお休みしていると思われる身体の感覚がほぐれ、呼び戻されるようでした。
当日の参加者集合場所となった園内の古民家(移築展示された旧内田家住宅)では、限りなく屋外に近い縁側から、畳の間をゆっくり歩き皆で奥へ移動。最も奥の板間で耳を澄ましチクタク響く古時計の音を聞きました。耳を澄まし時計の音を意識すると、徐々に屋外の鳥の声が聞こえるようになってきます。住まいの奥で心地良い鳥の声を無意識に感じ取っていたことが分かるのです。さらに驚いたことは音のネガ・ポジが反転すること。鳥の声を意識していると時計の振り子音がキーノート(基調)サウンドになり気にならなくなる(田中氏)。
住まいの奥で季節や天候で多彩に変化する美しい鳥の声がするなんて素敵。屋内と屋外、室と室など境界(田中氏は「あわひ」と表現)の曖昧さ(田中氏は「ゆらぎ」と表現)が魅力の古民家には、音がとても関わっていたことを再認識しました。日ごろ視覚に頼り過ぎていないだろうか?スマートホンやパソコンなど、目で見て集めた情報で分かった気になっていないだろうか?。縁あってサウンドスケープを考える機会に恵まれました。身体を動かしながら無意識に使っている、自身の耳の感覚、身体の感覚を見つめる貴重な経験だったと言えます。
集合場所となった園内の古民家(移築展示された旧内田家住宅)では、限りなく屋外に近い縁側から、畳の間をゆっくり歩き皆で奥へ移動。最も奥の板間で耳を澄ましチクタク響く古時計の音を聞きました。
田中氏が持参した紙コップを使った糸電話。中央に金属製の家庭用トングが付いています。田中氏がペンでトングをたたくと軽い乾いた音がしますが、耳にあてた紙コップからは、音が増幅されお寺の鐘のような音色に聞こえました。ビックリです。普段は感じていない音が確かにトングにはある。普段意識していない音が、身の回りにあふれていることを学ぶイントロダクション。(写真中央が田中直子氏)
水の湧き出る心地良い音が聞こえる遊歩道。直径1mを超えるメタセコイヤの横を通る瞬間、なんと音が消えます。水音がそこだけ遮られ通り過ぎると再び水音が聞こえてくる。「音が消えることで、より音が強調されることを意図して造園されていると感じる」という田中氏のお話に納得。
サポートをして頂きながら、ゆっくり目を閉じて歩く。水際のボードウォーク(木製遊歩道)。傾いた柔らかい地面。歪な木の根の上。そしてボードウォークに戻る。床の素材が変わるときの足元の不安感は中々スリリングです。動揺を感じているなか、耳を澄ますことで際立って聞こえる野鳥の声。とにかく凄く聞こえてくるんです。「ここで目を開けて下さい」と田中氏の声で目を開けた時の安ど感とともに、風景が目前に広がり心地いい。その都度ファイルに感じたままの感想をメモしていきます。5回のメモと全体の感想を書き留め、皆で意見交換し概ね2時間のワークショップを終えます。スタート地点に戻った時には、まるで遠方の旅行から帰って来たような感覚をおぼえ不思議。
ワークショップ終了後、地域を良く知る参加者の方の案内で、知る人ぞ知る?お蕎麦屋さんへ。蕎麦とうふ、秋ハモと有機ゴボウの天ぷら。秋の新蕎麦を十割蕎麦で頂きました。とても美味しい。そして、季節と地域を見つめるワークショップでもあったことに、ここでコッソリ気が付きました(笑)。食事をしながら「道具を使わず手で直接食べると美味しいことがある」「海の波の音をサンプリングして音階に変換したサウンド制作のお仕事」等々、参加者皆さまの話題が広がり大変学びがありました。私にとって、食事の時間もワークショップでした。